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骨折、捻挫、打撲などの外傷をきっかけとして、慢性的な痛みと浮腫、皮膚の温度の異常、発汗の異常などの症状が続く病態のことを、RSD(反射性交換神経性委縮症)といいます。
RSDは、ズキズキ疼くような痛みやナイフで切り裂かれたような痛み、ひどいむくみなど、強い自覚症状があるにもかかわらず、他覚的所見が認められない場合が多いため、高次脳機能障害やPTSDとともに、「目に見えにくい後遺障害」といわれています。
RSDは、平成15年の労災法改正により、障害等級表における「神経系統の機能又は精神の障害」の中の「その他の特徴的障害」の「疼痛等感覚障害」の「特殊な性状の疼痛」として規定されています。そして、そこでは、RSDは、尺骨神経等の主要な末梢神経の損傷がなくても、微細な末梢神経の損傷が生じ、外傷部位に、同様の疼痛が起こるもの、と紹介されています。なお、自賠責保険の認定も労災の基準を参考にされます。
つまり、労災補償や自賠責保険は、「微細な末梢神経の損傷」が生じたことをRSDの前提としています。RSDと対比される神経因性の疼痛障害として、カウザルギーという病態があるのですが、これは末梢神経の不完全損傷によって生ずる灼熱痛、血管運動性障害、発汗の異常、軟部組織の栄養状態の異常、骨の変化などを伴う強度の疼痛であり、つまり明確な末梢神経の損傷があることが前提です。RSDは、カウザルギーと異なり、明確な末梢神経の損傷はないものの、微細であっても末梢神経の損傷が生じていることが必要だということです。
そして、RSDだと認められれば、労災の障害等級表第7級の3「軽易な労務以外の労働を常に差し支える程度の疼痛があるもの」、第9級の7「通常の労務に服することはできるが、疼痛により時には労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」、第12級の12「通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの」に認定されます。自賠責では、後遺障害等級表第7級4号「神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」、第9級10号「神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に認定されます。ただし、それは、「①関節拘縮、②骨の委縮、③皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の委縮)という慢性期の主要な3つのいずれかの症状も腱側と比較して明らかに認められる場合」に限られます。つまり、障害認定時においてなお、単なる受傷部位の疼痛と区別するほどの明らかな客観的な所見を有するものに限って、RSDと分類され、疼痛の程度に応じて障害等級が決められるのです。
これに対し、労災や自賠責保険の診断基準は、3つの客観的要件の充足を求めるもので、被害者に酷であるなどといった批判があります。
大阪地判平成22年11月25日判決(交民集43巻6号1512頁)は、RSDには「絶対的な診断基準は存在し得ない」としたうえで、「RSDは発症機序が未解明で、受傷機転から窺える傷害の程度と全く整合しないこともあり得る病態であることに加え、RSDと認定されると損害賠償実務において後遺障害等級9級あるいは7級の認定がなされるものであるから、その認定・判断には客観的な判断基準が必要と考える。そうすると、RSDと認定するには、RSDの四主徴(疼痛、腫脹、関節拘縮、皮膚変化)を含んだ自賠責保険上のRSD認定(労災保険における認定も同様)の三要件(①関節拘縮、②骨委縮、③皮膚変化(栄養障害・温度))を充足することが必要であるというべきである。」としました。そして、本件では、これら三要件の充足が認められないためRSDを否定しましたが、「客観的かつ厳格な要件が充足されている自賠法施行令上のRSD認定に至らなくても、いわゆる他覚的所見を伴う『頑固な神経症状を残すもの』(後遺障害等級12級)には該当する」としました。
つまり、裁判所は、RSDの認定にあたっては、まず、自賠責保険の等級認定基準に該当するかどうかを検討する立場といえます。ただし、その基準、つまり3要件のいずれかが認められないとしても、すなわちRSDではないということではありません。その場合でも、被害者の症状の原因を分析し、その症状がRSDの後遺症として将来にわたり持続する蓋然性があることを説得的に主張立証すれば、RSDと認定される可能性はあります。
この点、東京地裁の有富正剛裁判官は、「自賠責保険の等級認定基準の該当性が民事裁判においても一つの合理性を有する以上、これに代わる説得的な主張立証は、医療分野の診断基準により診断されたことがあることや、現在の症状が医療分野の診断基準に該当していることだけでは足りず、交通事故による受傷の状況、疼痛の部位・程度、治療経過、医師の診断経過、骨の委縮に関する検査の実施時期、リハビリテーションの状況等に加え、本人の年齢・職業、健康状態、生活状況等の諸事情を総合評価することによって初めて合理性を有するに至るものと思われます。」と述べられています(赤い本2013年版)。
つまり、自賠責保険でRSDと認定されなかった場合でも、実況見分調書やカルテを精査して有効な主張を行うことで、裁判上はRSDと認定される可能性があります。また、RSDとの認定が得られなくとも、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級12級に該当するとの判断を得る余地があります。
交通事故後の疼痛にお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
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