交通事故の加害者に対しては、不法行為に基づく損害賠償請求ができます。加害者に対して請求できる可能性のあるものの中に、逸失利益というものがあります。逸失利益とは、本来得られるべきであったにもかかわらず、事故により得られなくなってしまった利益という意味です。
交通事故により、年金収入のある被害者がお亡くなりになられた場合、その方が受け取られていた年金について、被害者が保険料を拠出しており、家族のための生活保障的な性質を持つものについては、逸失利益であることが認められています。
具体的に逸失利益性が認められている年金は、普通恩給、退職年金、老齢年金、障害年金があります。他方、遺族年金、軍人恩給扶助料は、受給者自身の生存中の生活を安定させる必要を考慮して支給するものであることを理由に、逸失利益性は否定されています。
被害者が交通事故によりお亡くなりになられた場合、将来得られるはずであった収入が得られなくなったという側面だけでなく、将来必要となる生活費が不要となったという側面もあります。したがいまして、加害者に対し被害者死亡による逸失利益の請求をする場合には、被害者が生存していたら将来必要と考えられる生活費が控除されることになります。
ここで、年金には生活保障という意味合いが強く、収入に占める生活費の割合が高いのが通常であると考えられています。そのため、死亡逸失利益の算定にあたっての生活費控除率は、通常30~50%程度とされているところ、年金の逸失利益の生活費控除率は、これらより高くする傾向にある。
具体的な生活費控除率は、受給していた年金の額や事案における個別の事情を考慮し、概ね50~80%の範囲で設定し、一般の事案では60%とされることが多いとされています。
それでは、年金収入の他に稼働収入もある場合はどうでしょうか。
この場合には、
①稼働収入の部分と年金収入の部分について区別し、稼働部分は通常の生活費控除率、年金部分は高めの生活費控除率を用いる方法
②稼働収入と年金収入について共通の割合とし、やや高めの割合にして控除する方法
③稼働収入がある期間は通常の控除率、年金収入のみとなる期間は高めの控除率を適用する方法
があるとされています。どの方法をとるかについては、事件が係属した裁判所により異なり、統一的な基準はないのが現状です。
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