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平成18年9月15日に、Y社の従業員Aが、長時間労働等が原因で死亡しました。そこで、Aの損害賠償請求権を相続したAの相続人のXらが、Y社の安全配慮義務違反を理由に、Y社に対して損害賠償請求訴訟を提訴しました。
Xらは、Aの死亡後、労災保険に基づく遺族補償年金の支給を受けており、かかる受給が損害額にどのように影響すするのかが問題となりました。
「被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が労働災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その填補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完関係を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきである。」
「特段の事情がない限り、その填補の対象となる損害は不法行為の時に填補されたと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが相当である。」
不法行為によって死亡した被害者の相続人は、不法行為に基づく損害賠償請求権も相続しますが、相続人は、被害者の死亡により労災保険に基づく遺族補償年金を受けることがあります。
ただ、遺族補償年金を受給した場合、被害者の損害賠償請求権から控除されるのでしょうか。
本判決は、遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を填補することを目的とするものであって、被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同質かつ相互補完性があるため、遅延損害金ではなく、まず元本から損益相殺的な調整を行うべきと判示しました。
また、遺族補償年金は、不法行為の後に支給されるため、損益相殺的な調整がされる時期が問題となりましたが、損害は不法行為の時に填補されたと法的に評価し、不法行為時に損益相殺的な調整を行うと摘示しました。
この判決により、労災保険に基づく遺族補償年金は、不法行為の時に、損害の元本から控除されることになるので、被害者の遺族に生じる遅延損害金の額が減少する結果となりました。
本判決は、労災保険法に基づく遺族補償年金の目的が労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失の補填であることに照らし、損益相殺的調整の対象となる損害は、遺族補償年金と同質かつ補完性のある逸失利益等の消極損害としています。他方で、自賠責保険に基づく保険給付のような賠償責任の填補を目的とする給付は、民法491条1項の充当順序に従い、遅延損害金から損益相殺的調整を行うことになるかと思われます。
(最判平成27年3月4日)
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