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令和2年7月9日,交通事故の定期金賠償に関する最高裁判決が出されました。これまで,交通事故による逸失利益の賠償は一括で受け取る「一時金」による賠償が一般的でしたが,この判決によって,毎月受け取る「定期金」による賠償も認められることになりました。以下では,この判決について詳しく解説していきます。
そもそも,「定期金」による賠償とは何でしょうか。
将来の介護費用や逸失利益など将来にわたって発生し続ける損害については,2つの請求方法が考えられます。1つは,「一時金」による賠償です。これは,将来発生する損害額を算定したうえで,中間利息(3%)を控除して現在の価値に引き直し,一括で支払うというものです。中間利息というのは,運用利益のようなものです。10年後にもらうべき100万円を今もらったとすると,この100万円を10年間運用して増やすことができるはずなので,その分差し引きましょうということです。
2つ目の請求方法は,「定期金」による賠償です。これは,将来にわたって発生する損害を,その都度定期的に支払ってもらうというものです。今年の逸失利益は今年払ってもらって,来年の逸失利益は来年,再来年の逸失利益は再来年支払ってもらいます。「定期金」による賠償の場合は,中間利息控除がされませんので,「一時金」による賠償よりも,総支払額が多くなり,一般に,被害者にとって有利といえます。
これまでの交通事故事件実務では,後遺障害による逸失利益については,「定期金」による賠償ではなく,「一時金」による賠償がされておりました。
最高裁は,以下の理由で,一定の場合には「定期金」による賠償を認めてもよいと判断しました。
第1に,民法は,不法行為に基づく損害賠償請求につき,一時金による賠償でなければならないとは定めていません。第2に,民事訴訟法には,定期金払いを前提とする規定もあります。ということは,一定の場合には,定期金払いを認めてもよいはずだということです。交通事故被害者にとって有利な判断といえるでしょう。
では,どんな場合に定期金払いを認めてよいのかというと,最高裁は2つの要件を挙げました。
まず,①被害者が定期金賠償を求めていること。
次に,②不法行為制度に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当であることです。
ここでいう「目的」というのは,「被害者が被った不利益を補塡して,不法行為がなかったときの状態に回復させること」であり,「理念」というのは,「損害の公平な分担」を指します。
②が具体的にどのような場合に認められるのか定かではありませんので,今後の裁判例を注視する必要があります。
【定期金賠償の要件】 ①被害者が定期金賠償を求めていること ②不法行為制度に基づく損害賠償制度の目的(被害者が被った不利益を補填して,不法行為がなかったときの状態に回復させること)及び理念(損害の公平な分担)に照らして相当であること |
「定期金」による賠償を認めると,その「定期金」をいつまで賠償し続ければいいのかという問題が出てきます。この点についても,最高裁は判断を下しています。
まず,これまで実務で一般的だった「一時金」による賠償の場合には,特段の事情がない限り,終期は就労可能年数の終期であって,被害者が死亡したときではない,というのが,確立した判例でした。なぜなら,67歳までに被害者が亡くなるか否かで受け取れる額が変わってしまうと,衡平の理念に反するからです。そして,その理屈は,「一時金」による賠償か「定期金」による賠償かで変わらないはずです。したがって,特段の事情がない限り,「定期金」による賠償の場合も,終期は就労可能年数の終期とすべきだと判断しました。
今回,最高裁は,交通事故による後遺障害逸失利益の賠償について,「定期金」による賠償を認めました。しかし,その理屈は,不法行為一般に広くあてはまるものなので,今後は交通事故以外の場面でも,「定期金」による賠償が認められる可能性が十分考えられます。
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