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保険会社の約款の中には、「故意免責条項」と呼ばれる条項が置かれているのが通常です。故意免責とは、交通事故を引き起こした加害者(であり被保険者)が、その事故を故意に引き起こした場合には、保険会社がその事故により発生した損害について賠償する義務を負わないとする特約のことです。仮にこの条項に当てはまってしまうと、保険料を支払って任意保険に加入していたとしても、保険会社から何も補填を受けられないことになってしまいます。以下では、この故意免責についてトピックごとに整理したいと思います。
保険法上、保険者は、保険契約者又は被保険者の「故意又は重大な過失によって生じた損害」を填補する責任を負わないとされています(保険法17条1項)。なお、責任保険契約に関しては、故意によって生じた損害のみを免責の対象と定めています(同条2項)。
ここでいう、「責任保険契約」は、損害保険契約のうち、被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生じることのある損害を補填するものと定義されています。文言をみると非常に分かりづらいですが、いわゆる対人・対物賠償責任保険などがこれにあたります。これに対して、人身傷害補償保険などは、責任保険契約にあたりませんので、故意又は重過失が認められてしまうと、保険による補償が受けられなくなるおそれがあります。
交通事故で生じた損害について協議がまとまらず、裁判に移行した場合に、(当然ケースにもよりますが)今回の交通事故が生じた大きな原因は相手方にあると主張することがあると思います。もっとも、その際に、「相手方がわざと車をぶつけてきた」といった主張を行い、仮にそれが認められてしまうと、相手方任意保険会社は、相手方が故意に交通事故を発生させたケースに該当するとして、故意免責条項に基づいて、支払いを拒否する可能性があります。
交通事故により生じた損害を回復するために訴訟を提起したにもかかわらず、相手方任意保険会社からは支払いを受けられず、資力のない相手方本人から回収せざるを得ないといった落とし穴にはまらないよう注意が必要です。
故意に被害者に傷害を負わせれば、その傷害により発生した損害については、故意免責条項による免責がなされることは上述のとおりです。それでは、故意に傷害を負わせた結果、意図せずして被害者が死亡してしまった場合に、その死亡結果についても故意免責条項が適用されてしまうのでしょうか。
この点につき、判例(最判平成5年3月30日)は、故意免責条項に記載される「故意によって生じた損害」の文言解釈は、保険者が例外的に保険金の支払いを免れる範囲をどのようなものとして合意したのかという、保険契約当事者の意思解釈の問題であると捉えています。その上で、傷害と死亡とでは、おのずと損害賠償責任の範囲に大きな差異があるため、傷害の故意しかなかったにもかかわらず、予期していなかった死の結果を生じた場合にまで免責の効果は及ばないとするのが一般保険当事者の通常の意思に沿うと判断しました。
このように、仮に意図して傷害を負わせた場合であったとしても、その傷害によって発生した傷害以上の結果についてまで、当然に故意免責条項が適用されるとは限らないというのが判例の結論です。こうしたケースに限った話ではありませんが、故意免責条項が機能する損害の範囲については、よく調査する必要があるといえるでしょう。
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